不動産売却を身内に行うには?家族や親族に不動産を売るコツを解説!
2019.10.25投稿不動産売却を身内と行う際には、どんな問題や注意点があるのでしょうか。
この記事では、以下のような疑問や質問にお答えします。
この記事ではこんな悩みを解決します!
- 不動産売却って身内相手の場合は普通のやり方と違うの?
- 不動産の売却価格は身内相手だから安くしてもいいの?
- 不動産を身内に売る場合って誰に頼めばいいの?
この記事では、不動産を身内に売却する場合の注意点、不動産の売却と贈与との違い、身内に売る場合と一般的な売却との違い、不動産会社の仲介を入れる重要性、そして不動産売却を身内に行う際に具体的にどのようにすれば良いのかの基本的な流れについて解説していきます。
この記事を読めば、身内に対して不動産売却を行う際のすべての疑問や不明点が解決します。
不動産売却を身内に行う際の注意点
不動産売却を身内に行う際の注意点にはどのようなものがあるのでしょうか。
売却先が家族や親族などの身内である場合、売却ではなく贈与とみなされる可能性があります。
また特例が使えないなど、一般的な売却と様々な点で異なります。
身内に売却する場合に気をつけるべきポイントを確認していきましょう。
不動産売却ではなく「みなし贈与」とみなされる可能性がある
親や兄弟、親族など身内に対して不動産を売却する場合、一般の不動産売却と同様に売買契約を交わして、相手方から売却代金を受け取り、引き渡しや登記を行ったとしても、贈与したとみなされるケースがあります。
このようなケースを「みなし贈与」といいます。みなし贈与とみなされた場合は、贈与税がかかります。
みなし贈与の詳細と対策に関しては、次章でわかりやすく解説していきます。
譲渡する際の特例「3,000万円特別控除」が使えない
親子や夫婦、生計を一とする親族といった身内相手に不動産売却を行う場合、3,000万円の特別控除が使えません。
3,000万円の特別控除とは、居住用住宅を売却した際に、譲渡所得から3000万円を控除できる特例です。
譲渡所得とは、不動産を売却して利益が出た場合に譲渡税という税金の対象となる所得のことで、以下の式で計算します。
譲渡所得=収入金額−譲渡費用−取得費
3,000万円の特別控除を利用できる場合、上記の式から3000万円を差し引くことができます。
譲渡所得=収入金額−譲渡費用−取得費−3,000万円の特別控除
つまり、一般的な居住用住宅の売却の場合には、売却で利益が出たとしても、3,000万円の特別控除の条件を満たしていれば3,000万円までの利益であれば税金がかからないということです。
しかし、身内から購入した場合、3,000万円の特別控除の適用条件から外れるため、3,000万円の控除を受けることができません。
以下は、「マイホームを売ったときの特例」の「特例を受けるための適用要件」において、身内間の不動産取引に関係する部分を抜粋したものです。
(6) 売手と買手が、親子や夫婦など特別な関係でないこと。 特別な関係には、このほか生計を一にする親族、家屋を売った後その売った家屋で同居する親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人なども含まれます。
引用元:マイホームを売ったときの特例(国税庁)より
生計を一にする親族とは、必ずしも同居を意味するわけではありません。このため一緒に暮らしていなくても、例えば常に売主から生活費をもらっている親族なども生計を一にする親族とみなされる可能性があります。
住宅ローンが通らない可能性がある
身内間の取引の場合、買主側が銀行などの金融機関の住宅ローンを受けられない可能性があります。
なぜ身内間の取引に対して金融機関は住宅ローンの実行に消極的になるのでしょうか。それは大きく以下の2つの要因が関係しています。
- 住宅ローンの不正利用につながりやすいから
- 住宅ローンの保証会社がつかないから
それぞれについて確認していきましょう。
①住宅ローンの不正利用につながりやすいから
住宅ローンは、住宅を取得するための融資であり、融資したお金が住宅取得のために適正に使用されることを前提にしています。
そのため金融機関としては、住宅ローンとして融資されたお金が、他の用途として利用されることを避けたい気持ちがあります。
親子間の取引などの身内同士の不動産取引の場合、住宅ローンで得たお金が例えば売主の債務返済のために使われるなど別の用途として利用されてしまう可能性が高くなります。
また、身内同士の不動産取引においては、売買価格が相場価格に比べて安すぎるケースが多いです。
この場合は贈与となり本来の住宅ローンの利用目的から外れるので、やはり住宅ローンの審査には通りません。
②住宅ローンの保証会社がつかないから
多くの金融機関では、住宅ローンを受ける際に、金融機関が指定する保証会社に保証人になってもらうことがローンの条件となっています。
保証会社の役割は、住宅ローンの返済ができなくなった場合に、債務者の代わりに金融機関に対して住宅ローンを支払うことです。
保証会社の規定している契約内容に、身内間の取引は保証の範囲外となる、といった項目があることが多いです。
そのため、身内間の取引の場合、保証会社の承認が得られずに住宅ローンの審査に落ちる可能性が高いです。
身内間の不動産取引において、絶対に住宅ローンを使えないわけではありません。
身内間であっても不動産会社を仲介として入れて、適正な販売価格で販売している場合は、贈与とみられる可能性は低いです。
また、住宅ローン契約において保証会社による保証を必要としない金融機関もあります。
しかし、上記の通り、多くのケースにおいては、住宅ローンを使えない可能性は高いといえます。
名義変更は、贈与か売却と同じ意味
不動産の名義変更は安易におこなってはいけません。
不動産の登記簿上の名義変更は、単なる書類上の変更ではありません。不動産の名義人は、その不動産の所有者です。
親の名義を子供の名義に変更した場合、親の不動産を受け取り、子供がその不動産の所有者となったことを意味しており、所有権が移転したということです。
つまり、名義変更は、贈与あるいは売却をおこなうことと同じ意味になります。
不動産の名義変更をおこなった場合、無償で譲った場合、あるいは相場よりかなり安い販売価格で販売した場合は贈与とみなされ、贈与税がかかります。
また売却する場合も、先に名義変更していた場合は、住宅ローンは使えません。
すでに自分のものになっている不動産に対して、住宅ローンは使えないからです。
このように不動産の名義変更は注意が必要です。
くれぐれも簡単に考えずに、贈与か売却か、どのように不動産を取り扱うのかを決めてから、最終的な手続きとしておこないましょう。
みなし贈与とみなされないための対策
ここまでは、身内への不動産売却の注意点について解説してきました。
ここからは、身内間の不動産取引でもっとも注意すべき、「みなし贈与」の概要と、みなし贈与とみなされないための対策について解説していきます。
みなし贈与の概要
みなし贈与に説明にあたって、まず贈与とは何かを知る必要があります。
「贈与」とは、ある人からある人に無償で財産を受け渡すことです。贈与は親子などの親族に対しても他人に対してもおこなえます。
この贈与する財産には、贈与税がかかります。
ただし、贈与税には年間110万円の基礎控除があり、財産の110万円以上の部分が贈与税の課税対象となります。
贈与税=(不動産評価額 − 基礎控除110万円)× 税率 − 控除額
贈与税は、基礎控除後(基礎控除額110万円を引いた後)の課税価格によって、また、一般贈与財産か特例贈与財産かによって、税率と控除額は異なります。
贈与税の税率と控除額については、国税庁のHPで確認できます。
つまり、タダで財産をもらったときに、その財産が110万円以上の場合にかかる税金が贈与税です。
「みなし贈与」とは、不動産取引において相場よりも著しく低い価額で売却した場合に、売却したのに贈与とみなされることです。
みなし贈与は、親族はもちろん、他人への売却においても適用されますが、親族間取引の場合は厳しくチェックされます。
みなし贈与では、贈与税と同じ扱いで課税されます。
みなし贈与は、相続税法第7条、第9条を根拠としています。以下に一部を抜粋します。
<第七条> 著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、当該財産の譲渡があつた時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があつた時における当該財産の時価(当該財産の評価について第三章に特別の定めがある場合には、その規定により評価した価額)との差額に相当する金額を当該財産を譲渡した者から贈与(当該財産の譲渡が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。
引用元:相続税法第7条(電子政府の総合窓口e-Gov)より
<第九条> 対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては、当該利益を受けたときにおいて、当該利益を受けた者が、当該利益を受けたときにおける当該利益の価額に相当する金額(対価の支払があつた場合には、その価額を控除した金額)を当該利益を受けさせた者から贈与(当該行為が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。
引用元:相続税法第9条(電子政府の総合窓口e-Gov)より
7条の考え方をわかりやすくいうと、例えば時価1億円の不動産を6,000万円で売却した場合、時価との差額の4,000万円の部分が贈与とみなされるというイメージです。
※贈与とみなされる可能性のある販売価格については後ほど解説します。
9条を不動産のケースに当てはめて要約すると、無償、著しく低い価額で不動産を譲渡した場合、贈与とみなされるという意味です。
みなし贈与の怖い点は、当事者同士が贈与と意識していない場合でも贈与となる点です。
次章では、みなし贈与を避けるための具体的な対策について解説します。
不動産の販売価格を低く設定しない
身内間の不動産売却を贈与とみなされないためには、「著しく低い価額」にしないこと、つまり、不動産の販売価格を低く設定しないことが重要です。
しかし、どのような価格が著しく低い価額に該当するのか、そして時価とは具体的に何を指すのか、実は法律では具体的には定められていません。
具体的な不動産価格の決め方
一般的には、以下の方法で時価を算出します。
下記①〜③の方法は実務上採用されている方法であり、この方法なら確実に贈与とみなされないという方法ではないことにご留意ください。
- 不動産会社の複数の査定価額の平均価格
- 不動産鑑定士による不動産の鑑定価格
- 相続税評価額、固定資産税評価額を参考にする
一般的な方法は①です。②は①より専門性がありますが、不動産鑑定士に支払う鑑定料が発生します。
③は相続税評価額の場合は時価より約2割、固定資産税評価額の場合は約3割安いとされています。
過去のみなし贈与に関する裁判所の判例(平成19年8月23日東京地裁判決)において、土地を相続税評価額(時価の80%)で売買した場合、相続税評価額は土地を取引する上で一つの指標となる価額であり、著しく低い価額とはいえないという判決が出ています。
つまり時価の80%以上であれば、著しく低い価額とはならず、みなし贈与とはならない可能性が高いといえます。
身内間取引でも不動産会社を入れるのがオススメ
身内間の不動産取引においては、実務的な面でもみなし贈与を避ける上でも、身内同士でも売主と買主の間に不動産会社を入れるべきです。
上記の通り多くの金融機関は、身内間取引に対して住宅ローンを行うことに消極的ですが、不動産会社の仲介が入っていて、適切な売買価格で取引していれば、住宅ローンを受けられるケースもあります。
不動産会社が間に入っていることにより、適切な売買が行われている客観的な証明になり、贈与とみなされる可能性は低くなります。
不動産売却を身内に行う際の基本的な流れ
不動産売却を身内に行うケースで、不動産会社に仲介を依頼する場合の基本的な流れを解説していきます。
①自分たちで売却する不動産の時価相場を確認する
複数の不動産会社から売却する不動産の査定を受けます。
複数の査定価格は、物件の時価を把握するための重要な資料となります。
複数の査定価格を手に入れるには、不動産一括サイトを利用しましょう。
不動産一括サイトは、インターネット上で複数の不動産会社に不動産の査定依頼ができるサイトです。
②実績のある不動産会社に仲介を依頼する
一括査定サイトで依頼した不動産会社の中から、身内間の不動産取引の取り扱い実績のある不動産会社を選びましょう。
もちろん、信頼できる地元の不動産会社などに依頼しても大丈夫です。
③販売価格を決める
不動産会社とも相談して、不動産の売却価格を決めます。
具体的な価格設定の方法は本記事の「具体的な不動産価格の決め方」を参考にして、不動産会社と相談して決めましょう。
住宅ローンを利用する場合は、売買契約前に不動産会社から金融機関に打診してもらいましょう。
事前審査が通れば、売買契約に入ります。
売買契約を結ぶ
通常の不動産取引と同様に、重要事項説明書、売買契約書に署名捺印して売買契約を結びます。
買主は売主に手付金を支払います。売買契約後に本審査が行われ、無事に本審査が通れば住宅の引き渡しと登記に移ります。
④引き渡し、残余金の支払い、不動産登記を行う
引き渡し日には、物件の引き渡しと、売買代金から手付金を差し引いた残余金の支払い、不動産登記が行われます。
現金での支払いの場合は、必ず領収書を作成しておきましょう。
まとめ
それでは、身内に対して不動産を売却する際のポイントをまとめていきましょう。
記事のおさらい
- 身内間の不動産売却の場合は、贈与とみなされやすい、特例が使えない、住宅ローンが使えない可能性が高いというデメリットがある
- みなし贈与を回避するには、不動産の価格を著しく低い価額にせず、時価相当の価額にする
- 身内間の不動産売却のケースでも、不動産会社を入れることで住宅ローンを受けられる可能性がある
- 確実ではないが、時価の80%以上であれば、著しく低い価額ではないので贈与とみなされない可能性が高い
- 時価の計算方法は①不動産会社の査定価額の平均価格②不動産鑑定価格③相続税評価額や固定資産税評価額等を参考にする
身内間の不動産取引においては、何よりも透明性と客観性が重要です。
そのためには通常の不動産取引と同じように、不動産会社を仲介に入れたり、客観性のある不動産価格情報を根拠として売買価格を決めたりするといった方法をとることが重要です。
本記事が身内間の不動産取引を円滑に進める一助となれば幸いです。
不動産ライター兼不動産経営者
宅地建物取引士、保育士
1983年福岡生まれ。上海復旦大学卒。 商社、保育園、福祉施設での勤務を経て、現在は不動産の記事を中心に手がけるライター兼不動産経営者。実際に店舗・住宅を提供している立場から、不動産に関する記事を執筆中。 趣味はフットサル、旅行、読書。美容と健康のために毎日リンゴ人参ジュース飲んでます。