不動産売却で事故物件について知っておくべき3つのこと
2019.02.01投稿「事故物件」という言葉を聞いたことがある人も多いと思います。事故物件とは、過去に事件・事故のあった物件のことで、通常の売却方法とは異なります。
仮に、自分の所有する物件が事故物件の場合、どのようにして売却するか分からないという方も多いでしょう。
そこで、この記事では以下の点を解説していきます。
この記事ではこんな悩みを解決します!
- 事故物件とはどういうもの?
- 事故物件を売却するときの注意点はある?
- 実際にどのようなトラブルがあったか気になる…
筆者は、元々マンションディベロッパーの営業マンであり、数多くのマンションを仲介してきました。
今回の記事は、実際に物件の仲介をした経験から解説していきます。事故物件を所有している人は、ぜひチェックしてみてください。
この記事の目次
事故物件とは
まずは、そもそも事故物件とはどのような物件か?という点から解説します。結論からいうと、事故物件に明確な定義はなく、売主だけの判断で事故物件か否かの判断をするのは危険です。
事故物件の定義は曖昧
事故物件は、「心理的瑕疵」のある物件です。言い換えると、「買主が心理的に『嫌だな』と思うことがあった物件」のことを事故物件といいます。
心理的瑕疵があるとは、たとえば以下のような物件のことです。
- その部屋で自殺があった
- マンションの隣戸で殺人事件があった
- マンション内で飛び降り自殺が発生した
上記のような場合、買主は心理的瑕疵を負うでしょう。このような物件が「事故物件」という扱いになるのです。
もう一度言いますが、売主だけの判断で事故物件か否かの判断をするのは危険です。事故物件かどうかの判断は不動産会社の営業マンと一緒にすべきです。
この記事では実際の判例を後述するので、その判例を自分の物件が事故物件に該当するかどうかの判断材料にしましょう。
買主(購入者)は事故物件を簡単に調べられる
事故物件は「大島てる」というサイトで調べることができます。
このサイトにアクセスして、自分の調べたい地域を指定すると、該当の物件で過去に何か事件や事故があったかが以下のように明示されます。
- 東京都文京区千五○丁目:自殺
- 東京都中央区晴海○丁目:12階住戸の住人が自殺
- (分譲当初の頃)東京都中央区勝どき○丁目:マンション上階の通路から飛び降り自殺
実際のサイトには、丁目以降の地番も記載してあるので正確な位置が分かります。また、物件によっては事故発生時期や、事故の詳細も記載してあります。
このサイトを利用すれば、買主も簡単に事故物件か否かを調べられます。また、売主も知らない事件・事故があるかもしれないので、まずは自分の物件を検索してみましょう。
事故物件の売却では「瑕疵担保責任」と「告知義務」に注意!
事故物件の概要が分かったところで、次は瑕疵担保責任と告知義務という2点について解説します。これらを知らないと売主にもリスクがあるので要注意です。
事故物件は心理的瑕疵のある物件である(瑕疵担保責任)
そもそも瑕疵担保責任の瑕疵とは、「傷・欠陥」「一般的には備わっているにもかかわらず本来あるべき機能・品質・性能・状態が備わっていないこと」を指します。
瑕疵担保責任は、そのような瑕疵があった場合に売主が責任を取るという意味です。
上述したように、事故物件は心理的瑕疵のある物件であり、その瑕疵については次項で解説する「告知」が義務になります。
仮に、「隠れた瑕疵につき一切の担保責任を負わない」という特約が付されていても、事故物件であることを事前に告知していなければ瑕疵担保責任を問われます(※)。
※参考サイト:自殺についての瑕疵担保責任(全日本不動産協会)
事件・事故は買主へ伝えなければならない(告知義務)
前項でも少し触れまいたが、事故物件はその内容を買主に告知する義務があります。買主への告知とは、具体的には売買契約を結ぶ前の「重要事項説明書」に盛り込むことで告知します。
買主に告知する際は以下の点を確認しておきましょう。
- 告知は検討段階で行う
- 告知義務は事件・事故の発生からいつまで負う?
告知は検討段階でおこなう
告知義務が発生する物件であれば、以下の理由で購入検討者への告知は検討段階で行いましょう。
- 売買契約時だと不信感を募らせる
- 値引き交渉になる可能性が高い
できれば、一度内覧をして検討が進みそうな段階が良いでしょう。仮に、検討段階では伝えずに売買契約のときに伝えた場合、検討者は「事前に言うべき」と不信感を募らせる可能性が高いです。
また、告知内容を懸念した場合、値引き交渉になる可能性が高いので、その意味でも検討段階で伝えておくべきです。
告知義務は事件・事故の発生からいつまで負う?
上述したように、事故物件かどうかの判断はケースバイケースなので、自分の物件を事故物件として扱うべきかどうかは、後述する判例を確認しつつ営業マンと相談することをおすすめします。
告知義務は事件・事故発生からいつまで負うか?という点も同じです。明確に「○○年経過すれば告知義務は負わない」とは言い切れないので、判例を見つつ営業マンと相談しましょう。
たとえば、事件の内容が猟奇的な内容であった場合は、数十年経っても告知義務を負うと判断された判例もあります。
意図的に隠せば損害賠償問題になる可能性がある
次項の判例で詳細は解説しますが、売主が意図的に事故物件であることを隠して告知しなかった場合は、引渡し後に損害賠償問題になる可能性があります。
そのため、告知義務について少しでも懸念があるときは、隠したりせずに必ず営業マンに相談しましょう。最悪の場合は、引渡し後に売買契約が解除され、損害賠償金を支払う可能性もあります。
判例紹介|事故物件の売買における告知義務
では、実際に事故物件の売買に関する告知義務を、判例を基に紹介していきます。
※参考資料:心理的瑕疵に関する裁判事例について(RETIO 不動産適正取引推進機構)(PDFファイル)
瑕疵として認められた判例
まずは、瑕疵として認められた判例です。つまり、告知義務があったと判断されたということです。
6年前の自殺物件
この物件(マンション)では6年前にベランダで自殺がありました。
事件後も売主は本物件で家族と平穏に生活していたこともあり、告知をせずに売却したものの買主から訴えを起こされました。
その結果、「買主の契約解除と違約金請求を認めた(その後和解)」という判決になっています。
判決理由は、子供も含めた家族で居住する物件で、自殺という心理的瑕疵は大きいという点です。また、「6年」という期間の経過もさほど長期であるとはいえないという点も判決結果の理由になります。
約50年前の殺人事件
これは、約50年前に凄惨な殺人事件があり、その後更地となった土地を売買した案件です。50年という期間を加味して、売主と不動産会社は買主に告知せず売却しました。
しかし、買主が訴えを起こした結果、裁判所は買主の契約解除を認めるという判決を下しました。判決理由は、50年前という期間であるものの、近隣住民の記憶の中に残るほど凄惨な事件だったことです。
つまり、その土地に住むことで、近隣住民との付き合いに支障が出る可能性があるほどの事件内容だったという点がこの判決結果につながりました。
瑕疵として認められなかった判例
一方、瑕疵として認められなかった判例もあります。つまり、告知義務なしと認めたということです。
蔵での自殺
この物件は、約7年前に物件の敷地内の蔵で自殺がありました。しかし、売買時には蔵は取り壊されていたので、告知せずに売買しました。
引渡し後に買主が訴えを起こしますが、裁判所は本件事件より約7年が経過し、事件のあった蔵は既に存在していないことから訴えを棄却します。
このように、50年前の事件でも内容によっては瑕疵が認められ、7年前の事件でも内容と当該建物の有無によって判例は異なるのです。
だからこそ告知義務の有無はケースバイケースであり、信頼できる不動産会社に相談する必要があります。
事故物件の売却価格の相場は安い
事故物件の売却価格は相場より安くなるケースが多いです。やはり、通常の物件とは違い心理的瑕疵があるため、安くしないと物件が売れないからです。
しかし、「事故物件=安い価格になる」というわけではありません。事故や事件の内容にもよりますし、不動産売却の方法にもよります。
次項で、事故物件でありながらも、なるべく高く売る方法を解説していきます。
事故物件を上手に売る6つの方法
前項のように、事故物件は相場価格より安い金額になりやすいですが、その状況でもなるべく高く・上手に売る方法は以下です。
- 上手く値引き交渉に使う
- 事実関係をしっかりと確認しておく
- そのエリアで売却実績のある不動産会社を選ぶ
- 更地にして売却する
- リフォームして売却する
- 買取を検討する
①上手く値引き交渉に使う
上述したように、検討段階で事故物件を告知した場合には、値引き交渉になる可能性が高いでしょう。
そのため、逆に検討顧客に対して「実は○○のような事故(事件)があった…。この点を加味して○○万円値引きする」という交渉が可能です。
いきなり理由もなしに値引き交渉すると相手も不信感を覚えますが、告知義務があるのであれば買主も納得します。
つまり、「事故物件」を「値引き交渉を切り出しやすい物件」というメリットに変えてしまうのです。
もしくは、既に値引きをしている価格で売り出すという方法もあります。そうすれば、ほかの物件よりも安い売り出し価格になるので集客は格段に増えるでしょう。ただ、値引きした価格で売り出すと、もっと高く売れるチャンスをはじめから逃すことにはなります。
②事実関係をしっかりと確認しておく
事件・事故が起こったのであれば、その事実関係をしっかりと認識しておきましょう。上述した判例のように、約50年前だとしてもその事件が凄惨な場合は告知義務があります。
逆に言うと、事故物件ではあるものの、大して影響しないという事件・事故の場合もあるでしょう。
たとえば、総戸数が千戸を超えるよう超大型マンションで、3棟に分かれているマンションに住んでいたとします。そして、その1棟で自殺があったものの、自分の棟とは距離的に離れているとしましょう。
この場合、もはや別のマンションといえることができるほど距離は離れていれば、買主もそれほど懸念しないかもしれません。
しかし、事実関係を確認しないと、「物件内で自殺があった」というだけの告知になり、買主の印象も著しく悪くなります。
③そのエリアで売却実績のある不動産会社を選ぶ
事故物件を売却するときには、とにかく集客が大事です。というのも、事故物件に大して懸念が小さい人と出会わない限り、売却するのに苦戦するからです。
そのため、そのエリアに売却実績のある不動産会社を選びましょう。そうすれば、既にそのエリアで検討している顧客を抱えている可能性があるので、初期の集客がしやすくなります。
④更地にして売却する
上述した判例でも、「売買時には当該蔵は取り壊されていた」と、事件があった蔵を取り壊した状態では瑕疵がないと判断されました。
そのため、マンションだと難しいですが、たとえば戸建の場合には取り壊してから売却することで、事故物件の懸念が薄れる可能性があります。
特に、築古で建物価格の査定額がゼロに等しい場合は、取り壊さなくても買主は解体費用を加味して検討するので、更地にして売却した方が良いでしょう。
⑤リフォームして売却する
マンションのように解体できない場合は、全面リフォームするという方法もあります。もちろん、リフォームしたところで事件・事故の事実は消えません。
しかし、実際に事件・事故があった現場のフローリングやクロスが張り替えられていれば、買主の心理的瑕疵も多少和らぐでしょう。
⑥買取を検討する
最終手段ですが、不動産会社に買い取ってもらうという方法もあります。そうすれば、一般個人を接客するよりは、事故物件に対する懸念が小さいので売りやすいです。
しかし、通常の買取の場合でも相場金額の7割~9割程度まで価格が下がってしまうので、事故物件の場合はさらに価格が下がる懸念があります。
そのため、即現金化したいとき以外は、買取は避けた方が良いでしょう。
トラブルなく事故物件を売却するには不動産会社選びが重要
このように、事故物件を売却するときは、買主への告知や売却のポイントが通常の不動産売却とは異なります。
そこで大事になってくるのは不動産会社選びです。というのも、不動産会社の営業マンと告知義務の有無を相談しますし、実際に告知するのも営業マンだからです。
告知するタイミングや言い方、値引き交渉などを含め、営業マンの力量で売れ行きは左右するでしょう。
まずは、売却実績がある不動産会社であり、営業マンが迅速・丁寧・正確で信頼できるかを見極めましょう。そのためには、訪問査定時の営業マンの対応を見極める必要があります。
まとめ
それでは、今回解説した「事故物件の不動産売却」について、覚えておくべきことをおさらいしましょう。
記事のおさらい
- 事故物件の定義は曖昧でケースバイケース
- 事故物件の場合は告知義務がある
- 告知は検討段階で行うべき
- 解体したり不動産会社を慎重に選んだりと上手に売却するコツがある
まずは、自分の物件に事故や事件がないか、「大島てる」で確認しましょう。仮に、懸念すべき事項があれば、上述した内容を踏まえて不動産売却に臨まなければいけません。
不動産会社選びを慎重に行い、告知をするタイミングも慎重に見極めます。そうすることで、少しでも高く事故物件を売却することにつながっていくのです。
コンサルタント
宅地建物取引士
新卒で不動産ディベロッパーに勤務し、用地仕入れ・営業・仲介など、不動産事業全般を経験。入居用不動産にも投資用不動産にも知見は明るい。独立後は、不動産事業としては主にマンション売却のコンサルタントに従事している。趣味は読書。好きな作家は村上春樹、石原慎太郎。