認知症でも不動産売却は可能?認知症の際の不動産の処分方法を紹介
2019.02.05投稿ある人が認知症になった場合、その人の不動産を他の人が代わりに売却することはできるのでしょうか。
この記事では以下の疑問や質問にお答えします。
この記事ではこんな悩みを解決します!
- 認知症の親の不動産を子供は売却できる?
- 認知症の人の不動産売却を誰に相談すべき?
- 親の代わりに不動産を売却するための手続きが知りたい
この記事では、認知症の人は不動産売却が可能か、子供が親の代わりに親の不動産を売却するにはどうすれば良いのか、成年後見制度とはなにか、親が認知症と診断された時にどのように動けば良いのかについて解説していきます。
この記事を読むことで、親が認知症になった場合、どのような流れで不動産を売却すれば良いのかハッキリと理解できます。
この記事の目次
認知症の程度によっては本人でも不動産を売却できない
認知症の人は、不動産を売却することができるのでしょうか。
認知症の場合、ポイントとなるのは、本人の意思能力があるかどうかです。意思能力とは、自分の行いの結果がどのような結果をもたらすのかを理解する力です。
では、認知症によって意思能力がないとされる人が不動産契約を行った場合、どうなるでしょうか。
ケース①
例えば、認知症があるAさんが、自分の所有する一軒家に住んでいたとします。Aさんは、その他に不動産は持っていません。
このAさんが自分の住んでいる家を、市場価格より非常に低い価格で売却したとします。この場合、Aさんは自分の住む場所を失ってしまい、さらに手元にはわずかなお金しか残りません。しかも、売却後に家を借りて引っ越しをするための準備もしていませんでした。
Aさんが意思能力を持っていているとすれば、このような行為をはたらくとは思えません。このような場合、たとえ書類上の不備がない正式な契約であったとしても契約は無効になります。
ケース②
また、ある事例では、ある認知症のBさんがマンションの一室を所有していて、そのマンションを自分の息子夫婦に賃貸しているとします。Bさんは特に経済的に困っているわけではありません。
そのBさんは、突然誰にも相談せずに、そのマンションを相場より極めて安い価格で不動産会社に販売してしまいました。不動産のオーナーとなった不動産会社は、息子夫婦に立ち退きを要求したとします。
このケースでは、不動産を売却した結果、明らかに息子夫婦に対して立ち退きなどの不利益をもたらす可能性があります。このケースのBさんもやはり、認知症によって契約後にどのような結果が起こるのか、予測できていたとは言えません。
これらの事例のように、ある人に意思能力(不動産の売買の是非を判断できる能力)がないと売却できず、売買契約それ自体が無効になります。
それでは、本人に判断能力がある、つまり意思能力があるかどうかは、どのようにして判断できるのでしょうか。次章で詳細に解説していきます。
本人に意思能力があるかどうかは医師による診断が必要
本人に意思確認があるかどうかは、基本的に医師による診断が必要となります。
一般の人から見てある人の様子がおかしいとは思っても、それが認知症なのか、認知症であるならばどの程度の重さなのかは判断ができません。認知症であっても、自分の名前を筆記できたり、自然な会話の受け答えができたりする可能性があります。
客観的にその人が認知症であるかどうかを証明するためにも、診断書をもらっておくことが重要です。また、診断書は、後述する成年後見制度の利用のためにも必要です。
次項では、認知症の親の不動産を売却するための、具体的な方法について解説していきます。
認知症の親の不動産を子が売却できるとは限らない
たとえば認知症になってしまった親が老人ホームに入り、老人ホームのお金に当てるために親の家を子供が売却する必要性がある場合、「成年後見制度」が利用されます。
成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などの理由で判断能力に問題がある人が、財産管理や様々な契約やサービスの利用などで不利益を受けないために保護する制度です。
成年後見制度には、法定後見制度と任意後見制度の2つがあります。
- 法定後見制度:家族などの申立により適用されるもの
- 任意後見制度:将来に備えて自分で後見人を選んでおくというもの
親が認知症になり、不動産売却の必要がある場合は法定後見制度の適用が当てはまります。法定後見制度では、選任された成年後見人が、本人の代わりに財産管理を行います。
しかし、子が成年後見人に選ばれるとは限りません。
誰が成年後見人になるかは、家庭裁判所が選びます。子供が自分や親族を成年後見人の候補者として、あるいは知り合いの司法書士などを推薦したとしても、あくまで候補者なので、最終的には家庭裁判所が判断して決定します。
親族以外では、専門家である弁護士や司法書士が選任されるケースがほとんどです。現在では、約7割のケースにおいて、専門家が選出されています。
親族間の紛争や被後見人の財産が多いケースにおいては、子供が成年後見人になるだけでは不十分で、専門職関与が必要であると家庭裁判所が判断した場合、後見監督人として弁護士などの専門職が付く場合もあります。
つまり後見人を申立した場合、
- 子供など親族が後見人に選出されるパターン
- 専門家が選出されるパターン
- 子供など親族が後見人に選出された上で、弁護士などの専門家が後見監督人として選出されるパターン
の3つが考えられます。
成年後見人は、財産目録や、本人の生活にかかる金額を予測する収支予定表を作成して提出するなどの業務があります。
認知症の親の不動産を売却する流れ
ここからは、認知症かつ意思能力がないと判断された親の不動産を売却する流れについて解説します。
- 認知症の親のために成年後見制度の申立をする
- 成年後見人が選定される
- 家庭裁判所に不動産売却の許可を申請する
- 成年後見人が本人に代わり不動産を売却する
- 不動産を売却した後も成年後見人としての業務は続く
売却そのものは①~④の流れですが、売却後も成年後見人としての立場が続きます。
④で終わりではなく、⑤も含めて売却の流れであるという認識でいた方が良いでしょう。
①認知症の親のために成年後見制度の申立をする
たとえ親の財産でも、子供が代わりに親の財産を売却することはできません。
まずは、家庭裁判所に成年後見制度の申立をおこなう必要があります。
成年後見制度の申立の流れについては記事後半で解説します。(記事後半に飛んで、申立ての流れを見る)
②成年後見人が選定される
成年後見制度の申立の内容にもとづいて、家庭裁判所により成年後見人が選定されます。
申立人が後見人になるとは限らず、専門職の弁護士・司法書士が選ばれるケースがあります。
③家庭裁判所に不動産売却の許可を申請する
成年後見人から家庭裁判所に「居住用不動産処分許可」の申立を行います。
家庭裁判所から、子供が成年後見人として選定された場合においても、居住用の住居の売却については、家庭裁判所の許可が必要です。
居住用の住居の売却については後ほど詳細に解説します。
④成年後見人が本人に代わり不動産を売却する
居住用不動産処分許可がおりたら、成年後見人は不動産会社に売却の仲介を依頼するなどして、不動産売却の手続きに入ります。
売却後の代金は、親の財産なので、被後見人である親の口座に振り込まれます。成年後見人であっても売却代金を子供の口座に振り込むことは横領となるので注意しましょう。
⑤不動産を売却した後も成年後見人としての業務は続く
ここが注意点ですが、不動産を売却した後、目的を達成したとして後見人を勝手に辞めることはできません。
辞めるためには、正当な事由があると家庭裁判所に認められる必要があります。正当な事由とは、後見人の健康状態の悪化やその他の親族の介護などによって後見人の業務遂行が困難である場合などです。
辞める場合は、後見人が見つけるか、家庭裁判所の紹介などによって後任の後見人を見つけてはじめて後見人の業務を終了することができます。
成年後見人が不動産を売却する際の注意点
ここでは、成年後見人が不動産を売却する際の注意点についてお伝えしていきます。
居住用の不動産を売却するには「裁判所の許可」がいる
成年後見人は、本人(被後見人)の財産に関するあらゆる法律行為を本人に代わって行うことができます。ただし、非居住用の不動産については売却する権限がありますが、居住用の不動産の売却については別です。
成年後見人が被後見人の居住用不動産を売却する際には、「居住用不動産処分許可」の申立を行う必要があります。
家庭裁判所の許可を要することは、民法859条の3で以下のように規定されています。
成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。(利益相反行為)
引用元:民法第859条の3(電子政府の総合窓口e-Gov,総務省行政管理局運営)より
この場合、家庭裁判所の許可を得ずに居住用不動産を売却した場合は、契約は無効になります。
居住用不動産とは、現在住んでいる家、老人ホームに入る前など、過去に住んでいた家、これから住む可能性のある家も含みます。居住用不動産の売却は必ず家庭裁判所の許可を得てから行いましょう。
また、売却するためには正当な理由が必要です。
正当な理由とは、例えば老人ホームに入るための資金作りであったり、空き家で今後居住したりする予定もなく管理費がかかるなど、被後見人の利益を保護するための理由です。
居住用以外の不動産でも売却する場合にも「正当な理由」がいる
居住用以外の不動産を売却する場合でも、正当な理由は必要です。
その不動産売却が被後見人にとって相当性と必要性という要件を満たすことが求められます。
相当性とは、売却価格が市場相場に照らし合わせて妥当であったり、不利な条件でなかったりするなどのことです。
必要性とは、被後見人本人の生活費や入居施設の費用、入院費用などを捻出するために不動産を売却するなど、本人のために必要であることです。
成年後見制度について
ここでは、法定後見制度について詳細に解説します。
成年後見制度は後見・保佐・補助の3種類
法定後見制度には,「後見」「保佐」「補助」の3つがあり、判断能力の程度など本人の状況に応じて、制度を選べるようになっています。
後見、保佐、補助の違いは以下の表を参照ください。
表中の「代理権」とは、本人に代わって法的な手続きを行うことができる権利のことです。
制度の種類 | 本人の状態 | 代理権の範囲 |
---|---|---|
後見 | 常に判断能力が欠けている状態 | 財産に関する法律行為や契約に関わるすべての事柄 |
保佐 | 本人の判断能力が著しく不十分な状態 | 申立内容の範囲内で家庭裁判所が定める特定の行為 |
補助 | 本人の判断能力が不十分な状態 | 申立内容の範囲内で家庭裁判所が定める特定の行為 |
成年後見制度の申立が行われた後に、成年後見、保佐、補助のどの制度になるかは、医師の診断書・鑑定書にもとづき、家庭裁判所が最終的に判断します。後見の場合は後見人、保佐の場合は保佐人、補助の場合は補助人が選出されます。
いずれにおいても、不動産の売却に関しては、基本的に後見人、保佐人、補助人の同意が必要になります。
ただし被保佐人・被補助人については、保佐人・補助人の同意を得られなくても、本人に不利益がなく裁判所の許可があれば本人が不動産を売却することができます。後見人の場合、常に判断能力が欠けている状態であるため、本人単独で不動産売却はできません。
成年後見人の申立の流れ
成年後見人の申立は、次のような流れでおこないます。
- 必要書類を準備する
- 後見開始申立の手続きを行う
- 家庭裁判所の調査官による調査・鑑定
- 家庭裁判所の審判により成年後見人が選任される
- 登記と後見開始
申立から約2カ月で成年後見人が決まります。
①必要書類を準備する
住民票や医師の診断書など、必要書類を準備します。必要書類の一覧については記事後半にまとめています。(記事後半に飛んで必要書類を見る)
医師の診断書は、本人をよく知る主治医、かかりつけの医師に依頼すると良いでしょう。
②後見開始申立の手続きを行う
家族か4親等以内の親族により、家庭裁判所に対して「後見開始申立」の手続きを行います。申立をした人は申立人という呼び方をします。
家庭裁判所は、支援が必要である人の住民票がある地域の管轄の家庭裁判所です。各家庭裁判所で申込書の書式が異なるので、当該の家庭裁判所の申込書を利用しましょう。
③家庭裁判所の調査官による調査・鑑定
事実関係の調査のために、必要に応じて、申立人、本人、後見人候補者との面談が行われます。
後見制度の原則として精神鑑定が行われるとされていますが、現状では実際に精神鑑定が行われることはほとんどありません。医師の診断書で十分とされるケースが多いためです。鑑定が行われる場合は、5〜10万円の費用がかかります。
④家庭裁判所の審判により成年後見人が選任される
家庭裁判所の審判により成年後見人が選任されます。
申立書に記載した通りに成年後見人候補者が選任される場合もありますが、家庭裁判所の判断で他の弁護士等の専門職が選ばれる可能性もあります。
⑤登記と後見開始
審判結果の内容が、法務局に登記されます。
自分が後見人であることを証明する必要がある際は、法務局で登記事項証明書をとることで証明できます。
成年後見人の申立に必要な書類
成年後見人の申立に必要な書類は以下のとおりです。
裁判所によって申立書の書式が異なるので、当該の裁判所のものを使いましょう。
申立に必要な書類
- 申立書(家庭裁判所に行けば入手できます)
- 申立人の戸籍謄本1通
- 申立書付票
本人関係書類
本人の戸籍謄本、戸籍の附票、登記事項証明書、診断書各1通
成年後見人候補者に関する書類
成年後見人候補者の戸籍謄本、住民票、身分証明書、登記事項証明書各1通
財産関係書類
- 財産目録
- 収支状況報告書
- 申立事情説明書
- 後見人候補者事情説明書
- 親族関係図
成年後見人の申立にかかる費用
成年後見人の申立にかかる費用は、以下のとおりです。
- 収入印紙:800円
- 切手代:約5,000円(家庭裁判所により異なる)
- 登記手数料:2,600円(成年後見制度の審判結果の登記のため)
- 鑑定費用:5万〜10万円
- 成年後見人となった人への報酬目安額:月2万円
親が認知症と診断された際の注意点
まず、親の認知症の疑いがある場合は、かかりつけの医師があれば専門医を紹介してもらいましょう。
かかりつけの医師からの紹介であれば、本人が服用している薬の種類や身体の状態についてスムーズに連携ができるためです。かかりつけ医がいない場合は、地域包括支援センターで、精神科や脳神経科などの専門医を紹介してもらいましょう。
認知症と診断された後でも、軽度であれば本人による不動産の売却か、もしくは贈与を行うことができます。
なお、贈与の場合は贈与税がかかります。以下の式で計算できます。
贈与税=(不動産評価額 − 基礎控除110万円)× 税率 − 控除額
贈与税は、
- 基礎控除後(基礎控除額110万円を引いた後)の課税価格はいくらか
- 一般贈与財産と特例贈与財産のどちらか
によって、税率と控除額は異なります。
贈与税の税率と控除額については、国税庁HP「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」で確認することができます。
子供や孫への贈与の場合は、贈与税は特例贈与財産の税率となります。
例えば親から子供へ評価額600万円の建物を贈与したとすると、贈与税は以下の式で計算します。
贈与税=(不動産評価額 − 基礎控除110万円)× 税率 − 控除額
(600万円−110万円)× 20%−30万円 =68万円
売却するか、贈与を選ぶかは、贈与税の点も考慮して判断する必要があります。
単純に費用面で言えば、贈与税を払うより売却する際にかかる費用が安く済みます。さらに贈与と相続を税率で考えた場合、相続の方が得です。
例えば3000万円以下の対象税額に対して、贈与税の税率は45%、相続後の相続税の税率は15%です。
しかし贈与する建物が賃貸アパートなどの場合、将来的な収益性があるため、売却せずに贈与を選ぶという選択肢もあり得るでしょう。
まとめ
それでは、不動産売却の認知症についてまとめていきましょう。
記事のおさらい
- 認知症の程度によっては本人でも不動産を売却できない
- 意思能力とは、自分の行いの結果がどのような結果をもたらすのかを理解する力
- 本人に意思能力があるかどうかは医師による診断が必要
- 認知症の親の代わりに不動産を売却するには成年後見制度を利用する必要がある
- 成年後見制度を申立しても必ずしも子供が後見人になれるわけではない
- 居住用の不動産を売却するには「裁判所の許可」が必要
- 被後見人の財産を売却する場合には相当性と必要性が求められる
- 法定後見制度には「後見」「保佐」「補助」の3つがある
- 成年後見、保佐、補助のどの制度になるかは、家庭裁判所が最終的に判断する
認知症の場合、介護費や施設の入居費など経済的な負担が大きく、それらの費用を支払うためにも不動産の売却の問題は避けては通れません。
不動産の売却のためには成年後見制度の利用が必要ですが、必ずしも子供が後見人になれるとは限りません。また、不動産を売却したらそれで終わりというものではなく、継続して後見人としての業務を行っていく必要があります。
今回の記事が、成年後見人制度についての理解と、利用するかどうかの判断にあたって、お役に立てば幸いです。
不動産ライター兼不動産経営者
宅地建物取引士、保育士
1983年福岡生まれ。上海復旦大学卒。 商社、保育園、福祉施設での勤務を経て、現在は不動産の記事を中心に手がけるライター兼不動産経営者。実際に店舗・住宅を提供している立場から、不動産に関する記事を執筆中。 趣味はフットサル、旅行、読書。美容と健康のために毎日リンゴ人参ジュース飲んでます。